第三話 目覚めと猿
「ん、うぅん。」
俺が目を覚ましたのは、見覚えのない部屋の、見覚えのないベッドの上だった。
「―――こ、ここは?」
今の状況をほとんど理解できない俺に、唯一理解できたのは、隣に涼子と孔児が寝ているということだけだった。
「おい!涼子!孔児!」
俺がそうやって怒鳴りながら二人を起こそうとすると、見慣れないこの部屋の扉が開いた。
「起こさないであげて下さい。」
開いたドアの向こうから見えてきたのは、俺に助けを求めて、その上、助けに行った俺に切れていた、“赤髪の女”だった。
「その二人は遅くまであなたの看病をしていたんですよ。」
「あぁ、わかった。」
ん?なんか感じが変だぞ?と思ったがそれはとりあえず触れないことにした。
「あのさ―――――」
「言いたいことは大体見当がつきます。」
ここはどこなのか?という質問をしようとした俺に彼女はこう言ってさえぎったた。
「まずここは、アルシラート、あなたたちの住んでいた世界の平行世界です。」
「平行世界?」
聞きなれない単語に俺はそう尋ねた。
「そうです。つまりこのアルシラートは、もとあった、一つの星が
二つに分かれてしまった世界の一つなのです。」
「つまりパラレルワールドってことだな?」
そういった俺に彼女は首を横に振り、こう言った。
「いいえ、違います。たとえて言うならば、あなたの言うパラレルワールドは、一つの世界のほかの姿と言うことに過ぎません。
しかし、平行世界と言うのは一つの世界が二つに完全分かれて干渉しあえない世界を言うのです。」
「・・・じゃあ何でその干渉しあえない世界に俺たちはいるんだ?」
少し悩んだ後、俺がそう言うと、彼女はあからさまに動揺した。
「そ、それは・・・」
彼女は動揺のせいか顔を真っ赤にして右手を差し出した。
「原因はこれなんです。」
そういって差し出した右手の甲には両手に星らしき物を持った、
猿のような動物のタトゥーが彫ってあった。
「これは?」
「まぁ見てて下さい。」
そう言うと彼女は、右手の甲を前に突き出したままこう言った。
「二つの世界をつなぐもの、その多いなる力を我が前に現せ!“聖なる大猿・時猿”!」
彼女がそう叫ぶと、右手に光が集まりその光がはじけた。
そして、彼女と俺の間に立っていたのは、かわいらしい白い小さな猿だった。
少し動揺したが、気を取り直して聞いてみた。
「その猿が俺たちがここにきたことと何か関係があるのか?」
俺がそう問うと、その問いに答えたのは、
「大有りだぞ、小僧」
彼女ではなく、当然俺でもなく、その間にいた、白く、そして小さな“猿”だった。